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第143話 透の拒絶②

作者: 花柳響
last update 公開日: 2026-07-24 06:00:46

「え……?」

「その程度の紙切れと、どこかの三流記者が集めた端切れのデータで、天野グループを揺るがせると本気で思っているのか」

 透は一歩、私の方へ距離を詰めた。

 冷たいシトラスの香りが、冬の外気と混ざって私の鼻腔を鋭く刺す。

「それを世間に撒いて、どうなる。数時間で『出所不明の怪文書』だ。弁護士も広報も動く。警察にもメディアにも、天野の息のかかった人間はいる」

 彼の言葉は、私が広報として一番恐れていた現実の壁を、正確に、無慈悲に突いてきた。

「君が何を叫ぼうが、ただの『心を病んで婚約を破棄された哀れな娘』の被害妄想として片付けられるだけだ。……君の作った時系列表も、その帳簿も、ただのゴミ屑でしかない」

 肋骨の内側で、ドクンと冷たい痛みが走った。

 彼が言っていることは、事実だ。私の時限公開の仕組みは、美津子の箱庭にヒビを入れることはできても、天野という巨大な権力そのものを沈められる保証はない。

 けれど、それでも。

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